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「はーい席に着いてー。こら、山下くんもうふざけないの。着席の予鈴が鳴ったんだから静かに座りなさい。さて、今日の学活はうちの小学校で行なわれる2分の1成人式恒例のタイムカプセルを書く時間となってます。このタイムカプセルには未来のあなたたちへの手紙とそれと一緒にもし入れたいのなら今の宝物や好きなものを同封してもいいかもしれませんね。なに?角田さん。ああ、手紙に何を書けばいいのか困ってるのね。それは10年後大人になったあなたたちに向けてエールでもいいし、今の現状について書いてもいいし。なんなら今の将来の夢を描いて将来のあなたたちが実現しているかをドキドキワクワク楽しむのもいいでしょう。まあ要するに好きなことを書いていいわけです。そんな将来のあなたたちにメッセージをこの時間で書いてもらいますからね。早く終わった人は宿題なり本を読むなりして静かに他の人の邪魔にならないように過ごしてくださいねー。」

 

「そんなこと言われても困るよなー、なによりこれを書いて見返す時の将来の自分が一番困るんじゃないか?」

と、秀太はぶつくさと難癖をつけている。そんなことないよ、見返す時にきっとみんな笑いながらいじりあったりしていいものになると思うよ。と言うと秀太は共感を得られずムッとした表情をしたが彼は単純な性格ゆえにそっか!と返事をしさっきまでの態度を180度変えそそくさとタイムカプセルの中に入れる手紙を書き始めた。挙げ句の果てにはタイムカプセルと一緒に今日発売のジャンプも一緒に入れようぜ!と言うほどノリノリになる始末でこれには僕も苦笑いした。

「ジャンプなんか太すぎて入るわけないじゃない。タイムカプセルのサイズを過大評価しすぎだよ」

と横で康博がため息混じりに呟いた。

「あ?いいだろうがよータイムカプセルの大きさは個人の器の大きさなんだよ。おれのタイムカプセルにはジャンプどころかピックアップトラックぐらいも入るぜ」

もはや意味のわからない返しの挙句にタイムカプセルそのものの概念を履き違えてないか?と思ったが康博が自分が思ったこととほぼ同じことを代弁してくれたので無駄な労力を使わずに済んだ。

「じゃあお前は何入れるんだよ」

「んー、僕が頑張って勉強した証のこの赤鉛筆にでもしようかなー。いや、消しゴムでもいいな。」

「面白みがねーなー。将来の自分が見てなんて思うんだよそれ。おお!赤鉛筆じゃねえかァ!とかなるわけないだろ?頭が固い人は先が読めないね」

「そもそも入れれるわけもないジャンプを候補に入れる君の方が先を読めてないと思うけど。」

「じゃあ赤マルの方にでもするか…」

「いや、そう言う問題じゃないだろ」

なんだかんだ仲もよく掛け合いの続く2人を尻目に手紙を書く。対して深く考えて書くようなものでもないんだろうけどどうも真面目に書きすぎてしまう。そう言う点でいうと秀太の方が羨ましい。たぶん適当に3行ぐらい書いて文字の勢いで終わらせるのだろう。

「おいおい、真面目に書きすぎだろー!なんだよ、拝啓未来の僕へ。て。自分相手にそんな堅苦しくなくていいだろーがよー、おれらはまだ小学生なんだから小学生らしく似顔絵でも書いときゃいんだよ!」

秀太らしすぎる返答に苦笑いを浮かべつつここまでストレートに否定されると恥ずかしさも出てくる。あれ?この書き出しは普通じゃないか?なんで僕が恥じる側なんだ?

「手紙なんだから拝啓から始めるのは基本中の基本だよ。これを書かなければ誰に当ててるのかがわからないじゃないか。」

咄嗟に康博がフォローを入れてくれたおかげで湧き上がるような頬をほとばしる熱は徐々に冷めていくような心地がした。落ち着きを取り戻した僕も秀太に言い返す。

「拝啓を書かずに始めるって言ったらスタートが何もない状態で走り出すようなもんだよ。秀太にわかりやすくいうと甲子園の最初のウ゛ゥーーーーのサイレンなしで甲子園の試合が始まっちゃうような感じになっちゃうよ。だからあった方がいいでしょ」

ちょっとズレてるような気もしたけど秀太はなるほどなるほどと頷くと早速手紙に「拝啓未来の俺へ」と書き始めた。あまりにも単純すぎて秀太少し将来が心配になった。

「はーい、みんな書き終わったね?もし書き終わってないのならそれは宿題として来週までに提出すること。えー。とか言わないの。この時間ペチャクチャ喋ってたあなたたちが悪いんだからね。来週まで待ってあげるだけ温情だと思いなさいよ。とにかく一緒に入れるものは別になくてもいいんだから手紙だけは書きなさいね。それじゃあ書けた人は後ろから前に手紙を送って集めてください」

 

帰り道僕は秀太と一緒にいつも通り帰った。僕たち2人はアパートが同じで幼稚園の頃からの仲だ。なぜここまで性格が反対の2人がそんなに仲良いの?とよく聞かれるがつまりそういうことである。

「はー、ジャンプ却下されたから結局キン消しとネリケシ入れといたわ。未来の俺もこれには喜ぶだろうな〜」

あまりにもありきたりな同封物で未来の秀太はがっかりするんだろうなーと思うと思わず笑いそうになったがここで笑うと長年の付き合いでなぜ笑ったかが瞬時にバレそうだったのでグッとこらえ微笑を保った。

「勇気はなに入れんの?」

「僕はねー、泥団子入れるよ。僕の最高傑作だよ」

「お前ありきたりだなー。キングオブありきたり大賞最優秀作品になれるぞ」

お前には言われたくないと思ったがつい口に出てしまったようで頭を1発殴られた。理不尽だ。

「じゃあなー。明日は学校4時間だからよ、〇〇公園で野球しようぜ!」

「いいよー。僕も何人か人を集めとくよ。秀太も集めといて。」

「おうおう任せろ!」

そう言って秀太はアパートの3階へと消えて行った。さて、グローブどこやったっけ…探さないとな…

 

 

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『拝啓未来の僕へ。

 元気にしてますか?今の僕は体が弱く体を壊しがちだからそこが一番心配です(笑)僕の将来の夢は立派な理科の研究員になることです。その夢を果たせていますか?果たせていなくても僕のことだからなんとなく頑張ってやっていると思うので心配はしていません。

それよりも秀太とはまだ仲が良いですか?これが一番気になります。僕はなにかと秀太とは違うからいつか仲違いが起きるんじゃないかと心配です。とかいいつつ8年間ずっと仲良くやってきたんだけど(笑)

僕はこの10年間たくさんの人と知り合いましたがそのほとんどが秀太のおかげです。あまり言ったりすることはないけどほんとに感謝しています。あれ、なんか秀太への手紙みたいになってるなこれ(笑)まあいいか(笑)とりあえず総括して僕が伝えたいのは秀太を始め、今までできた秀太をはじめとするたくさんの友達をなによりも大切にしてほしいです。そしてそのことを一番に置いた上で10年後の僕の夢や目標を目指してほしいなと思います。長くなりましたけどこれで終わろうと思います。

4年2組吉持勇気』